トリケラトプス探究 (2002年8月)トリケラトプスにとても興味があります。イメージが現生のサイと似て、生きている姿がリアルに想像できるからでしょうか。 恐竜の姿を再現するには、身体の構造や、当時の生活環境についての研究が欠かせません。 ![]() illustration by Jun Kojima 1.骨格について 頭のてっぺんからつま先まで、つながったまま発掘されるケースはまれですが、 「レイモンド」の愛称で呼ばれる個体はこうした珍しい例のひとつです。(この個体は、 国立科学博物館で実物をみることができます。今回の記述は、主にこの展示の 観察を基本にします。) 全身骨格を見上げると、スケール感と重量感がよく伝わってきます。 ![]() photo by Jun Kojima 動きを再現する上でポイントとなる肩、腰に注目してみると、まず腰では、 腰骨が脊椎と癒合していることがわかります。ステゴサウルスのように後ろ足で容易に立ち上がる ことは出来なかったでしょう。 肩帯は、特に理解するのが困難な部分です。肩甲骨の形状がほ乳類と全く似ていないためです。 歩様を想像すると、さらに謎が深まります。前足がスムーズに前後に動作したとは思えません。 撓骨、腓骨がそれぞれ尺骨、脛骨と癒合していないことから、足首にはある程度、柔軟性が あったと思われます。 腰を支点に、肩を左右に揺さぶり、肘の屈伸を組み合わせて歩行したのでしょうか。 ![]() photo by Jun Kojima 恐竜温血説で有名なロバート・T・バッカー博士は、恐竜の四肢について比較解剖学研究から、 恐竜の肩甲骨が現生のカメレオンと同様の動作をした事を突き止めました。 そしてトリケラトプスなどの四足歩行恐竜は、肩甲骨を前後に動かすことが可能だったと述べています。 上記の論文は、1986年ロサンゼルス郡立自然史博物館でのシンポジウムで発表され、 「恐竜・過去と現在」第一巻(河出書房)に収録されています。 2.筋肉について トリケラトプスの復元骨格・復元図では、重い頭部を支えようと、苦しそうに腕立て伏せの ポーズをとる場面をよく見ます。身体の重心が胸にある、現生の大多数の草食ほ乳動物では、 肩・上腕・脊椎が強固な構造で体重を支えていますが、トリケラトプスの肩帯は腰骨にくらべ 簡素なつくりをしています。そこで、次のような比較を見てみましょう。 草食ほ乳動物:全長(鼻先から胴体の端まで)の1/2にあたる箇所は、前足の肘のすぐ後ろにあたる。 トリケラトプス:全長(鼻先から尻尾の端まで)の1/2にあたる箇所は、腸骨陵(腰骨の前端)にあたる。 トリケラトプスの後肢に大量の筋肉が付いていたことはよく知られています。重い頭部も含め、 腰を中心に巨体(4〜6トン、象の成獣とほぼ同じ重量)を支えていたと考えられるのではないでしょうか。 表層の特徴を形成しているおもな筋肉です。骨格のポイントとなる箇所を青色で示しました。 肩帯と腰帯の間隔が狭く、身体が固い箱型をしていることに注目して下さい。 これは鳥類と似て、四肢の力を効率良く地面に伝えることを可能にし、強力な心肺機能を 収納できる構造です。 肩帯の筋肉の一部は前部胸骨(軟骨のため、化石では保存されない)に 接続しています。 ![]() illustration by Jun Kojima 1 矢状筋 2 乳突筋 3 鳥口上腕筋(鳥口骨がはずみとなり、 上腕骨の垂直運動を可能にしています。) 4 胸筋 5 僧坊筋 6 円筋 7 三頭筋 8 広背筋 9 腸脛骨筋 10 腸腓骨筋 (参考文献) 「恐竜・過去と現在」第2巻(河出書房) 恐竜と恐竜の近縁動物の生存時の外観を復元する 科学と芸術:正確なハウツーガイド(グレゴリー・S・ポール) 恐竜データブック(大日本絵画、デイビット・ランバート 他) 3.表皮について トリケラトプスのウロコがどんな色だったか、それは誰にもわかりません。 彼らのウロコの色も、多くの鳥類・爬虫類と同様にメラニン色素の沈着・沈着阻害 で生じたものである以上、縞、格子、斑点などあらゆるパターンがありえたと思われます。 外観に少なからず影響を与えていたであろう生活習慣(泥浴びなど)もまた、見逃せないポイントです。
皮膚のテクスチャ(painterで制作)彼らのウロコは不規則な多角形を継ぎ合わせたようになっていて、 柔軟性があり、表面はザラついた、鳥肌状を呈していたようです。 白亜紀の植生と生息環境白亜紀の後期には、ジュラ紀に繁栄した木生シダの巨大森林はすでに衰退し、被子植物の放散が 進んでいましたが、彼ら角竜類は主にソテツ類やマツ等の葉を食べていたと考えられています。 トリケラトプスの、強力なクチバシと長大なアゴにずらりと並んだ切歯(カモハシ竜と異なり、 臼歯ではない)は、こうした硬い葉を持つ種の裸子植物を、十分に摂取できた事を証明しています。 彼らはおそらく衛生上の利点と、被捕食リスクを避けるため、乾燥した、開けた土地を好んだのでは ないでしょうか。 採餌時は視点が低くなり、危険が増大します。普通、眼が頭部の真横にある動物は360度近い視野を確保 していますが、彼らの巨大な襟飾りは横幅が非常に広いため、視界に多大な制限を課しています。 彼らを襲撃しようとする肉食獣は、弱点の腰を狙って真後ろから接近したでしょう。 ふだんは単独行動していたとしても採餌・給水時には集団を形成し、各々が好き勝手な方向を向いて 行動する事で、結果的にこの弱点を補っていたのではないでしょうか。
トリケラトプスの色彩体重が5トンにも達する巨大な成獣では、乾いた土の色が 最もカモフラージュ効果が高いと考え、明るいカーキ色としました。 背中が黒いのは、大型動物に共通の紫外線対策です。 幼体では、下生えのシダの茂みに紛れ易いグリーンの濃淡としました。 現生動物の多くの種で、幼体時のみ見られるまだら模様を、 彼らも持っていたと推測しました。 生態復元画を見る |